バスに乗ったら前に座っていた人がロシアのおばあちゃんみたいにスカーフを頭に巻いていた。ふいにひとり旅した時の、サンクトペテルブルクで乗ったバスの光景がよみがえった。
ひとり旅には友人知人と旅する時にはない独特の緊張感があって、それが些細な事のひとつひとつを記憶に刻むみたいだ。
そんなひとり旅の感覚が追体験できる旅エッセイ漫画を教えてもらった。
『女一匹 冬のシベリア鉄道の旅/織田博子』。
著者が選んだルートがおもしろくて、まず鳥取の堺港から韓国を経由してシベリア鉄道の始発ウラジオストクまで船で赴くというもの。
ウラジオストクからモスクワに向けた車内では、2ヶ月ぶりに家族の元へ帰る単身赴任の人と同乗したり、風邪をひいて看病を受けたりする。
ロシアのおばあちゃんアイドルグループに会うため夜に途中下車した乗り継ぎ駅では「次の列車は数日後までない」と言われ凹んだところで構内が消灯して真っ暗になる。驚愕と心細さに襲われるけれどそこから次の行動を選択するまでの心の流れなど。
ひとり旅の自由さと心細さ。
時に疑心暗鬼に陥りそうになるハプニング、そこに現れる旅の天使。人々の純粋なおせっかい、あたたかさ。言葉がなくてもハートで伝わり合うもの。
そういう、ひとり旅ならではの感覚がブワッとよみがえる。読み進めるうち、もうこりごりと思っていたはずのひとり旅なのに、いいなぁと思ってしまう。
女の、という枕詞を取り外して。すべてのひとり旅したことのある人へ。思わず感涙してしまうほど旅を追体験できるおすすめのエッセイ漫画だ。
コメント