先日、帰省した際に、中学生になった甥が「本を選ぶ基準」について話してくれた。
膨大な書棚の中から「これを読みたい」と選び出すこと自体が楽しい、と。
いい感性だなぁと嬉しくなって、昔、大好きだった絵本店のことを思い出した。
東京・国立に住んでいた頃、散歩コースの中に、
選書や雑貨のセレクトが好みの絵本店があった。
店内にはオーナーの感性が感じられる本や絵葉書、
知育玩具や雑貨が並び、私はコーナー別に選り分けられた
それぞれの棚を眺める時間が大好きだった。
星野道夫の写真集やエッセイ、
レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』など、
当時の自分に影響を与え、今でも大切にしている本の中には
その絵本店で出会ったものが沢山ある。
その中の一冊が、加島祥造さんの『老子ーTao タオ』だった。
老子について詳しく知っていたわけではない。
それでもこの本を手に取ったのは、加島さんのやわらかな言葉や、
本全体から漂う静かな空気に惹かれたからだと思う。
加島祥造(かじましょうぞう)さんは、英文学者、詩人として
活動したのち、中国古典『老子』と深く向き合い、
その思想を現代の日本人に伝え続けた人である。
『老子―Tao タオ』は『老子道徳経』81章を、加島さんの言葉で
自由に表現した作品だ。単なる翻訳ではなく、加島さん自身が
人生を通して受け取った老子の智慧を、読む人の心に届く言葉へと
紡ぎ直している。
私は、「自分軸」(自分の中心にあるもの)を
「メタ認知」(自分の思考や感情・行動を客観的に把握し、
適切に調整する力のこと)するようになってから、
若かりし頃に感銘を受けた加島さんの『老子―Tao タオ』が
また一際の魅力を放って響いてくるようになった。
2500年前の老子の思想を、加島さんの感性による解釈が
時を超えて語りかけてくるような、不思議な温かさを帯びている。
暑苦しすぎず、冷えすぎでもない。この本が絶妙な温度を保っているのは
「何をすれば成功するか」といった成功哲学を教える本ではないところに
あるのかもしれない。
「もっと頑張らなきゃ」
「ちゃんとしなきゃ」
「何者かにならなきゃ」
そんな力みを、加島さんの言葉は少しずつほどいてくれる。
自然の流れに身を委ねること。
力で押し通そうとしないこと。
自分らしくあること。
足ることを知ること。
柔らかさこそ、本当の強さであること。
特に、柔らかさやしなやかさの中に強さを持つという視点は
「柳のようなはんなりさ」に美学を感じる自分の感性に重なって
響いてくる。
老子の教えが、聖人君子の難しい哲学ではなくて、
日々の暮らしの中で実感できる言葉として語られている。
国立にいた頃の自分は「認められたい」
「本当の私はまだ本気出してないんで」なんてことで
頭がいっぱいだった。そんな左脳が忙しかった時代にも、
加島さんのシンプルな言葉は「このままの私でいいんだ」と
心を静かに、鎮もらせてくれた。
『老子―Tao タオ』は、真理を知ろうと急いで読み終える本ではない。
どちらかというと、その日の気分でページを開いて
心に残る言葉をゆっくり味わうのにむくと思う。
同じ章でも、読む時期によって響く言葉が変わるのも
この本の魅力だと思う。
無理に変わろうとしなくていい。
自然の流れに身をゆだねていい。
体に対して心が元気すぎて、帯状疱疹が出た私が言うのも何だけど。
だからこそ、あえて。
忙しい毎日を送る人や、自分に厳しくなりすぎてしまう人には、
ぜひ手に取ってほしい。
ページをめくるたびに、加島祥造さんの穏やかな言葉を通して、
二千年以上前の老子の智慧が、心と脳に、静かに届いてくると思う。
ということで、真夏のおすすめ避暑読書の一冊でした。
text: OMOMUKI magazine/ CIMACUMA SAORI



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