コーカサスの歴史が織り込まれたキリム

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南コーカサス三国(アゼルバイジャン・ジョージア・アルメニア)のキリムは、とても美しかった。

一般的な平織のキリムも目にしたけど、惹きつけられたのは刺繍のような細かな模様を織り込んだスマック織りと呼ばれるキリム。

無数の八芒星を中央に配し、まわりをS字フックで囲んだアゼルバイジャンのスマック織りキリム。八芒星は融合・統合・調和のサインであり、フックは魔除けを意味する。
アゼルバイジャンの首都バクーにある旧市街にて。キリム屋の前にディスプレイも兼て天日干ししているオールドキリム。

キリムとは、中央アジアから中東、アフリカまでの幅広い文化圏で織られているラグのことだ。

その歴史はとても古く、紀元前8,000年頃から遊牧民族の手によって移動生活のなかから生み出された必需品だった。

キリム屋の店員たちが実演で何かをしているが、糸を巻いている以外に何をしているのかよくわからなかった(笑)。

牧畜している羊の毛を刈り、洗い、ほぐし、整える。

そして引き伸ばし、紡ぎ、撚りをかけてようやく毛糸に。

それから草木を煮出した液で染色。

産業革命以前の時代は、すべて手作業で行われてきた工程だ。

ジョージアの首都トビリシの、ドライブリッジ(蚤の市)近くのキリム屋では店内にオーナーのアンティークコレクションがたくさん飾られていた。写真はジョージアの民族衣装と弦楽器のパンドゥリ。

毛糸が完成したところでようやくキリムを織るのだが、ここからは現在も手作業。

コーカサス地方のキリムはイランのキリム同様、スマック織りと呼ばれる高度な技法で手織りされている。

幸運のシンボル「鳥」をモチーフに織り込んだ、やわらかな配色が癒しを届けてくれるジョージアのキリム。

土台の縦糸と横糸の上にもう一本、横糸を絡めるように巻き込んで織っているので、平織のキリムより手間も時間もかかるが、刺繍したかのような美しい仕上がりになる。

店内の奥には貴重な骨董品だけを集めたオーナー自慢の特別室があり、話しの流れで見学させてもらった。
アゼルバイジャン人の父親がはじめたキリム屋だというアンティーク好きのオーナー。店内にはジョージアを中心としたコーカサスのキリムが、種類豊富に取り揃えられている。

キリムの図柄は村や部族ごとによって異なり、一人前の女性のたしなみとして母から娘に伝えられてきた伝統だ。

遥かなるいにしえの時代より、キリムづくりは女性の細やかな労働力によって支えられてきた。

図面などはなく、経験と感覚だけで複雑で多彩な図柄を織っている。

柄のちょっとしたズレや色のムラを見るたびに、キリムを通じてコーカサスの女性の手仕事を想い、人の手によるぬくもりや味わい深さを垣間見ることができる。

アルメニアの首都エレバンにある蚤の市「ヴェルニサージュ」で見かけた、大胆なキリムのディスプレイ(笑)。
コーカサスでは平織とスマック織りの両方のキリムを見かけた。三ヶ国のキリムの模様は、似通っているが雰囲気は異なる。

text: OMOMUKI MAGAZINE / CHAKA MAYO

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