南コーカサス三国(アゼルバイジャン・ジョージア・アルメニア)のキリムは、とても美しかった。
一般的な平織のキリムも目にしたけど、惹きつけられたのは刺繍のような細かな模様を織り込んだスマック織りと呼ばれるキリム。
キリムとは、中央アジアから中東、アフリカまでの幅広い文化圏で織られているラグのことだ。
その歴史はとても古く、紀元前8,000年頃から遊牧民族の手によって移動生活のなかから生み出された必需品だった。
牧畜している羊の毛を刈り、洗い、ほぐし、整える。
そして引き伸ばし、紡ぎ、撚りをかけてようやく毛糸に。
それから草木を煮出した液で染色。
産業革命以前の時代は、すべて手作業で行われてきた工程だ。
毛糸が完成したところでようやくキリムを織るのだが、ここからは現在も手作業。
コーカサス地方のキリムはイランのキリム同様、スマック織りと呼ばれる高度な技法で手織りされている。
土台の縦糸と横糸の上にもう一本、横糸を絡めるように巻き込んで織っているので、平織のキリムより手間も時間もかかるが、刺繍したかのような美しい仕上がりになる。
キリムの図柄は村や部族ごとによって異なり、一人前の女性のたしなみとして母から娘に伝えられてきた伝統だ。
遥かなるいにしえの時代より、キリムづくりは女性の細やかな労働力によって支えられてきた。
図面などはなく、経験と感覚だけで複雑で多彩な図柄を織っている。
柄のちょっとしたズレや色のムラを見るたびに、キリムを通じてコーカサスの女性の手仕事を想い、人の手によるぬくもりや味わい深さを垣間見ることができる。
text: OMOMUKI MAGAZINE / CHAKA MAYO
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