【東欧ジプシー音楽の旅2】ブルガリアン・ボイスとロマの旋律

Music

ブルガリアの蚤の市を訪れた時、会場内にたくさんのジプシー(ロマ)のシマ(集団で出店している)があることが意外だった。ハンガリーやルーマニアと違って、キリル語圏にはそんなにジプシーはいないと思っていたのだ。
「YES」「そうだよ」という時、決まって首を横に振る彼らと接していて、キリル語圏のジプシーたちはハンガリーやルーマニアのようにスレておらず誠実だなと思った。

というわけで『東欧ジプシー音楽の旅2』はブルガリアにやってきました。
個人的に、ブルガリアの伝統音楽「ブルガリアン・ボイス」が好きなので、今回はジプシー音楽というより「ブルガリアン・ボイス推し」になりそうな予感!

ブルガリアン・ボイスとロマ(ジプシー)文化

インド起源とされるロマ民族は、中世ヨーロッパ時代にインドより西へ西へと旅しながら、ここブルガリアの地にも根を下ろした。

渡り歩いた土地のエッセンスを吸収しながら進化したロマ音楽は、結婚式や市場、村の祭りなど、ブルガリアの民間行事に欠かせない存在となった。そこで奏でられる音楽は、民族の違いを超えて、人々を踊らせ、酔わせ、時に泣かせる力を持ってきた。

文化的・人種的には圧倒的に「遠く」、一見すると相容れないように感じるブルガリアン・ボイスとロマ音楽だけれど、同じ祭り会場で別々に鳴り響く光景が見られることもあるという。それもごく自然に、溶け合うようにして。二つの異なる文化が、音楽を通して共鳴するブルガリアの歴史。

ブルガリアン・ボイスとロマ音楽の特徴をそれぞれまとめてみた。

特徴ブルガリアン・ボイスジプシー音楽(ロマ)
主な形式合唱(特に女性)即興的な器楽と歌唱
ハーモニー2度などの不協和音メロディ主導、マカーム的旋律
感情表現厳格で精神的、象徴的情熱的、即興的、情緒的
使用楽器基本的にアカペラヴァイオリン、クラリネット、ツィンバロンなど

たとえるならブルガリアン・ボイスは「大地」、ロマ音楽は「風」。
大地にしっかり根を張る生命力の賛美歌のようなブルガリアン・ボイス。時に享楽的に刹那的に、永遠の旅人のように放浪するロマ音楽。全く異なる音の種類なのに、どちらも魂を震わせる旋律を持つ。

Анжело Маликов ブルガリアの代表的なジプシー音楽

ブルガリアのジプシー音楽といえば、代表的なのがАнжело Маликов(Angelo Malikov/アンジェロ・マリコフ)が率いる楽団だ。

紹介する動画では、アンジェロ・マリコフがツィンバロンを奏でている。

ジプシー音楽でよく使われるこの弦楽器「ツィンバロン」の発祥はハンガリー。台形の箱に張られた金属製の弦を叩いて演奏する。ツィンバロンは「ピアノの祖」とも言われ、初期ピアノのデザインに影響を与えたとされる。

Le Mystère des Voix Bulgares ブルガリアン・ボイスのこと

大地から鳴り響くような独特の旋律と女性達のハーモニー。
ブルガリアン・ボイスを初めて耳にした時、内側からゾクゾクする感覚が身体中をかけめぐった。

不協和音なのに美しい。
東欧・ブルガリアの伝統音楽を初めて聴いた時、初めて聴く摩訶不思議な旋律がなぜか懐かしい感覚になった。何だろう、この感じ?「あ、感動してるんだ」と後から気がついた。

不思議な旋律で聴く者の心をぐっと惹きつけてしまうブルガリアの伝統音楽、ブルガリアン・ボイス。国立合唱団「Le Mystère des Voix Bulgares(ブルガリアン・ボイスの神秘)」は1960〜70年代に収集・再構築され、1980年代に初めて東欧諸国を超えた世界に響き渡った。

最大の特徴は、何と言っても不協和音だろう。西洋の音楽理論ではタブーとされがちな「2度音程」や「倍音」が多用され、歌声の重なりが摩訶不思議な響きを生む。一度聴いたら忘れられないこの音楽(合唱)に魂を揺さぶられるような感動を覚えた人は多いと思う。

ブルガリアン・ボイスの合唱は、主に女性によって構成される。大地から湧き上がるような力強さ、土着的な発声。ポリフォニー(多声音楽)。技巧的というよりは祈りの儀式のような歌声の不協和音によるハーモニーだ。

音楽の交わる「境界地帯」

ブルガリアの地域の中には、ブルガリアの伝統合唱団(ブルガリアン・ボイス)にロマ出身の女性が参加している例もある。人種・血筋やルーツを超えて「ボイス(声)」が求められ、選ばれ、育まれて来た歴史が垣間見える。

近年のブルガリアでは、ブルガリアン・ボイスとロマ音楽を融合させた現代的なプロジェクトも増えてきたという。エレクトロニカ、ジャズといったジャンルとクロスオーバーしながら、かつてない音の地平を切り開いている。

見えてくるのは、音楽が人と文化をつなぐ「境界地帯」の存在かもしれない。「音」は時に、国境、民族、時代を超えてしまう。ブルガリアン・ボイスとロマ音楽。聴く者の内なる記憶を揺さぶるようなその音は、根源意識とつながるような「魂の故郷」のようなものなのかもしれないと思う。

ブルガリアン・ボイスおすすめミュージシャン

Trio Bulgarka(ケイト・ブッシュと共演している)
ブルガリアン・ボイスの代表的存在。ロドピやピリン地方の民謡要素=ロマ音楽の旋律とリズムを部分的に内包した興味深いブルガリアン・ボイス

IVO DIMCHEV(イヴォ・ディムチェフ)

一筋縄ではいかないクセ強ミュージシャン!アルメニアの映画監督パラジャーノフの世界観を彷彿とさせるMV。

Spiral Reborn / Yoko Kanno from 「∀ Gundam O.S.T.1」1999

変わり種では、こちら。
「∀ Gundam O.S.T.1」(ターンエーガンダム)より。
さすがは 菅野よう子さん!と唸ってしまうこの感性。

というわけで、今回はジプシー音楽というより、完全に「ブルガリアン・ボイス推し」になってしまったジプシー音楽の旅でした!

TEXT: OMOMUKI MAGAZINE/ CIMACUMA SAORI

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