「音楽でめぐる中東の旅」の第三回目は、アルメニア編です。
南コーカサス三国のひとつアルメニアは、北にジョージア、東にアゼルバイジャン、南にイラン、西はトルコに囲まれた、九州ほどの大きさの国。
でも古代オリエント時代のアルメニア王国(紀元前6世紀~)は、現在のコーカサス全域からアララト山を含む東トルコ、そしてイラン西部に広がる大国でした。
アララト山と言えばノアの箱舟が降り立った山として知られ、アルメニア人はノアの子孫だという説があります。
ちなみにノアの箱舟の破片が発見されたり、イエスを磔にしたロンギヌスの槍が保管してある、といった都市伝説のある国でもあります。
日本では知名度の低いアルメニアですが、実際に旅してみると雄大で美しいアララト山に感激し、世界最古の荘厳な教会に心ふるえ、食べ物もワインも美味しくて癒され、買付の値段交渉に四苦八苦したり、京大に留学経験のある日本語堪能な旅行会社のマダムと出会ったり、紀元前6000年頃のワイン醸造の遺跡へ行ったり、夜遊びしたクラブがいい感じの選曲だったりと、とにかく楽しい思い出ばかりの大好きな国です。
それでは中東雑貨CHAKAの店主MAYOによる、アルメニア音楽の旅をお楽しみください。

Sahak Parthev(サハク・パルテヴ)-「Aysor kangnetsav avazan mkrtoutyan」
まず、5世紀に作られたアルメニアの讃美歌(シャラカン)をご紹介します。
301年にゾロアスター教からキリスト教を国教としたアルメニアは、世界ではじめてのキリスト教国。
キリスト教のなかでもアルメニア使徒教会と呼ばれているのは、イエス・キリストの十二使徒と呼ばれる弟子たちがキリスト教を伝来したことに由来します。
イエスの死後約100年間、イエスが伝えた本来のキリスト教は「原始キリスト教」と呼ばれ、アルメニアでは絵画などにその影響を見ることができます。
西洋人化される以前のユダヤ人のイエスが描かれている絵画が、こちらの動画に映っているのでチェックしてみてくださいね。
ちなみに讃美歌を作曲したSahak Parthev(サハク・パルテヴ)は、5世紀のアルメニア総主教であり、宗教音楽と文化の発展に貢献した人物です。
Sayat-Nova(サヤット=ノヴァ) – 「Kani Vor Janim」
サヤット=ノヴァ(1712-1795)は、アルメニアの吟遊詩人(アシュク)であり、宮廷音楽家でもありました。
彼の楽曲は、愛と哀愁、民族の魂を織り交ぜた詩的な世界観を持っています。
「Kani Vor Janim」は、彼の代表曲の一つで、アルメニアの情熱的なメロディが特徴です。
吟遊詩人(アシュク)とは?
アシュク(Aşık, عاشیق, Ashik)とは、トルコ、アゼルバイジャン、アルメニア、イラン、ジョージアなどの地域に伝わる吟遊詩人(バルド)の伝統的な音楽家のことです。
アシュクは弦楽器(主にサズ)を弾きながら、即興で詩を歌い上げることで知られています。
Tigran Hamasyan(ティグラン・ハマシアン) – 「The Court Jester」
現代アルメニア音楽の象徴とも言えるティグラン・ハマシアンは、ジャズとアルメニア民族音楽を融合させた独創的なスタイルで知られています。
「The Court Jester」は、彼の卓越したピアノテクニックと、民族的な要素が融合した一曲。
リズムの変化とエモーショナルな旋律が、まるで物語を語るかのように展開されます。
2019年公開のオダギリジョーの初監督作品「ある船頭の話」では、音楽担当として参加しています。
G.I. Gurdjieff(G.I.グルジェフ)/ Gurdjieff Ensemble at Karahunj
グルジェフ・アンサンブルは、神秘思想家であり作曲家でもあったG.I.グルジェフの楽曲を演奏するグループ。
特にKarahunj(カラフンジ)での演奏は、古代アルメニアの遺跡で収録され、歴史と音楽が融合した神秘的な雰囲気を生み出しています。
ドゥドゥク(Duduk)やカヌーン(Kanun)といった伝統楽器が織りなす音色が、時空を超えた響きを生み出します。
G.I.グルジェフとは?
グルジェフはアルメニア生まれの神秘主義者、著述家、作曲家、舞踏家。
19世紀に活動し、欧米の文学者や芸術家、心理学、精神世界の分野に影響を与えた人物です。
人間の個としての成長に関する「ワーク」という言葉をはじめて使ったり、「エニアグラム」を世に知らしめました。
東洋を遍歴した後に、ロシア、フランス、アメリカなどでグループの指導者として活動。
グルジェフ・アンサンブルとは?
✅ グルジェフの音楽を民族楽器で再現
グルジエフは、東洋や中東、中央アジアの伝統音楽に影響を受けた作曲を残しましたが、それらの多くは弟子のトーマス・デ・ハートマン(Thomas de Hartmann)によってピアノ用に編曲されました。
グルジェフ・アンサンブルは、これらの楽曲を本来の民族的な響きに近づけるため、アルメニアや中東、中央アジアの伝統楽器で演奏することを特徴としています。
✅ 使用される民族楽器
- ダウル(Dhol, Դհոլ) – アルメニアの打楽器
- カマンチャ(Kamancha, Քամանչա) – ペルシア起源の擦弦楽器
- ドゥドゥク(Duduk, Դուդուկ) – アルメニアのリード楽器(哀愁のある音色)
- カヌーン(Kanun, Քանոն) – 中東の撥弦楽器
- タール(Tar, Թար) – コーカサス地方の撥弦楽器
✅ 音楽スタイル
- 神秘的で瞑想的な雰囲気を持つ
- スーフィー(イスラム神秘主義)や東洋哲学の影響を受けた旋律
- ミニマリズムと民族音楽の融合
Karahunj(カラフンジ)とは?
紀元前5500年頃の巨石遺跡。
約 223個 の大きな石(メンヒル)が円形や直線状に配置され、世界最古の天文観測所と言われています。
ちなみに岐阜県の金山巨石群は縄文時代の天文台で、約1万年前のものと推定されているので、世界最古は日本です。
アルメニア音楽は、時に悲しげでありながらも、力強いメロディが特徴的です。
その背景には、民族の歴史や精神的な深みが反映されています。
今回ご紹介した4曲を通じて、アルメニアの音楽の美しさと多様性を感じてもらえるとうれしいです❤
音楽は、国境を超えて私たちを結びつけるもの。
アルメニアの音楽に触れることで、より深い文化理解につながることを願っています。
次回はパレスチナの音楽シーンをご紹介します。
お楽しみに!
text: OMOMUKI magazine / CHAKA MAYO
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