誰かの目や杖になる〜ガイドヘルパーという仕事

Lifestyle
Amelie /Miramax Films

今日のTOP画像を見て「懐かしい!」と思った人、多いんじゃないかな。

ガーリーでノスタルジック、主人公アメリをはじめ登場人物全員が
クセ強!なフランス映画『Amelie(アメリ)』。
(公開は2001年!もうそんなに経ってるんだね。良いものは古びないね)

この映画の中で、私がずっと忘れられない場面がある。
アメリが道端で盲目の老人の手をとって、街の景色を伝えながら駅の入口まで
いくシーンだ。老人の表情はみるみる明るく輝き、
アメリの言葉はまるで彼の世界を色で彩るようだった。

私は今、雑貨店主と占星術の活動に加えてもうひとつ、副業をしている。
視覚障害のある方たちの外出を支援するガイドヘルパーという仕事だ。

仕事の内容はスーパーなどの買い物支援から通院の付き添い、
代読や代筆、芸術鑑賞や
場数をこなしたガイドは旅行の同行援護、マラソンや水泳といった
スポーツに特化した支援など、かなり多岐に渡る。

移動形態は、徒歩(盲導犬と一緒の場合も)、市電、地下鉄、
バス、JR(電車)、タクシーと公共交通機関を用いる場面が多い。

誰かの“杖”や“目”になるということは、
その人の外出の間を安全に担う責任のあることだ。

始めるにあたり「うっかり八兵衛な自分にできるだろうか?」と、
何度か自問自答した。

その時、ホームヘルパーをしていた頃に、
事業所の皆でスーパーへ買い出しに行く際の利用者さん達が
室内にいる時よりいきいきしていた事を思い出した。
そこに『アメリ』のあのシーンが重なった。

自分に務まるかわからないけれど、人生の折り返し地点を迎えた今、
仕事を増やすなら誰かが笑顔になる事に携わりたいと思った。
視覚障害者同行援護従業者養成研修の一般課程と応用課程というものを
1週間ほど学んで、ガイドヘルパーの資格を取得した。

実際の業務では、道路の凹凸や段差、人混みや狭い路地、階段やエスカレーター、
エレベーター、階段の手すりの位置、ホームの幅や車両が旧式か新式か、
病院や銀行ではいろいろな椅子の形状などを「言葉」で伝えてゆく。

扉の開閉の向きを伝えようとして言葉が出てこず、咄嗟に「こっち」とか「そこ」という
言葉が口をついてしまい、謝ると利用者さんの方が冷静に対応してくれる。
その時々の状況を瞬時に判断して言語化するって、こんなに頭を使うんだと驚いた。

利用者さんそれぞれの歩くペースに合わせて目的地へいかに安全に移動するかに
気を配る時間は、自分という輪郭が少し薄れて、自我がすっと静まる感じがする。
一緒に歩いていると、空気や湿度、車や工事音、飲食店の匂いなどの五感が
いつも以上に研ぎ澄まされて豊かに感じられる。
あぁ、皆さんこうして世界を楽しんでいるんだと実感する。

そして利用者さんと自分とが、四国遍路の“同行二人”のように寄り添いながら
歩んでいる感覚になる。お遍路さんは辛く険しい遍路道を歩く時に
「空海さんが支えてくれる」ニュアンスが強いけれど、ガイドヘルパーしている時は
チームワークというニュアンスが大きい。「今日はいい同行二人ができたかな?」と
振り返り、安全に移動できた事に安堵する。

普段は一人で外出できる方が、代筆が必要な場面が多い公共施設など
一人で利用できない場合にガイドヘルパーを利用する事もある。
ジムで汗を流す、新しくできたカフェでお茶を味わいたいなど利用する内容は様々で、
途中で視覚を失った方は「手が覚えているから」とすいすい編み物をする。
魅力的な利用者さんがいっぱいで、人生で出会う人の幅や世界がぐんと広がった感じがする。

この仕事を始めてから、市電のホームの尋常じゃない狭さとか、
点字ブロックが途切れて意味がない道が結構ある事などに気がつくようになった。
閉まるのが早いエレベーターの扉、青から赤への切り替えが早すぎる横断歩道…。

また、こうしたサービスの存在を知らなかったり、利用したくても
「迷惑をかけるのでは」「外が怖い」と感じて踏み出せない人もいるかもしれないと
考えるようになった。ガイドヘルパーの多くは40〜60代の女性で、男性ガイドはとても少ない。
若い世代、男性のガイドヘルパーが増えたら
もっと気軽に外出できる人が増えそうだし、希望に合った支援も広がると思う。

誰かの外の世界をひらく手伝いをすることが、自分自身の視界もひらいてくれる。
よりスムーズにガイドすることができるように「伝わる言葉」を習得し
工夫する必要はあるけれど、ガイドヘルパーは、やり甲斐のある仕事だと思う。

アメリが駅までの道を案内したあの場面。誰かの声や気配を通して届く世界がある。
障害があってもなくても、世界を謳歌して楽しむ人の姿が増えるといいな。
外出は特別なイベントじゃないのだから。

Amelie /Miramax Films

ガイドヘルパーに興味を持った方へ

 同行援護について(厚生労働省)

 私がガイドヘルパーの資格を取得した研修センター
 アイスマイル研修センター(北海道)

ガイド探している人とガイドできる人を結ぶ、日本初の個人間マッチングアプリ
 ミートミークス/meetme-X
 この未来型アプリを開発した団体さん
 日本ブラインドサッカー協会(JBFA)

 視覚障害者さん以外の同行援護について(かいごガーデン)

text: OMOMUKI magazine/ CIMACUMA SAORI

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