「ロシアに関わりのあるしまくまさんにと思って」と、知人が私物の天然石を持ってきてくれた。中央に、黒糖のような色の模様が浮き上がった、小さな白い石。「ロシアの十字石(じゅうじいし)です」。十字石…? 黒糖のような模様をよく見ると、なるほど十字架(クロス)の形をしている。
まるで人が彫ったように美しい十字の形。変成岩(地下の深い所で気圧や温度変化で性質を変える岩石のこと)から採れる天然石だ。十字形になる現象は「双晶」(そうしょう)と呼ばれ、結晶がふたつ交わることで形成される。石の世界では知られた現象だそうだが、双晶がここまではっきり視認できるのは「十字石ならでは」だという。十字石について調べてみると圧倒的に「奇石」扱いなのも、うなづける。
なんとも神秘的な十字石。自分でも手元に置いておきたくなった。探してみると ×(かけ算)マーク、L字形など、十字に見えない..わかりにくい..ものも多かった。知人の十字石は十字形が非常に美しかった。あの石は器量好しだったんだ。最初に良い石を見せてくれてありがとう、と思った。
十字石は白っぽいものから灰色、黒、赤褐色…と、採れる産地により色の種類が様々ある。ロシア、ノルウェーやスイス、カナダ、アメリカ、ブラジルなど産出国も多岐にわたる。日本では富山県・宇奈月(うなづき)で産出されると知り、行ってみたくなる。
コラ半島の十字石 Wikipedia より
wikipediaにハート型とクロス型の十字石の写真が掲載されている。コラ半島と記載がある。フィンランドと隣接するロシア北極圏の島で、ムルマンスクというオーロラで有名な州にある。ムルマンスク!ロシア旅の途中で「ムルマンスクにオーロラを見に行く時間が取れるかもしれない!」となり、予約サイトでキャンセル無料の宿を押さえたことがある。残念ながらその旅は実現しなかったけれど、そうか十字石も採れるエリアなんだと親しみがました。
その形状から、十字石は英語で『Cross Stone(クロスストーン)』『Staurolite(スタウロライト)』と呼ばれる。スタウロライトの語源は「十字架」を意味するギリシャ語『Stauros(スタウロス)』。キリスト教を進行する人たちはこの石を洗礼に用い、神聖な石として大切に扱った。自分は仏教徒だけれど、もし自然の中でこの石を発見したら宗派を問わず神秘的な気持ちになると思う。ましてや十字架を信仰のアイコンにしている人たちにとったら当然「聖なる石」だろう。中世ヨーロッパの十字軍も、この石をお守りにしていたそうだ。
フランスの隠者ピエールに率いられた民衆十字軍 1142年の地図 いずれもWikipediaより
… 十字軍! 現在の世界史で十字軍についてどれだけ記述があるかわからないけれど… 中高生の頃、「第3回十字軍」「第5回十字軍」という表記を見ては「また十字軍、遠征してる… 」と教科書越しに呆れたことを思い出す。だって十字軍の遠征、いつも失敗に終わるんだもの。
十字軍は11〜13世紀(1096〜1270年)約200年に渡り存在した。聖地エルサレムを東方世界から奪還しようという言い出しっぺ(ローマ教皇)の呼びかけで、何と世紀をまたいで7回も遠征している。「聖地奪還だ!」「異教徒を討伐だ!」と大義名分があって、その思想に感激して少年十字軍、羊飼い十字軍など色んな遠征チームが生まれたそうだ。民衆の信仰心と熱狂がすごかったんだろうな。。その煽りで東欧では信仰が改宗させられるとか、ずいぶん勝手な話がまかり通った時代でもある。。
そんな十字軍の200年に渡る活動は、イタリアと東方(イスラム世界=イスラム・ビザンツ)間の交通網や貿易を発達させた。イタリアからは銀が、イスラム世界からは香辛料、宝石、絹などが伝来した。
当時、ヨーロッパからの東方は地中海東岸の小アジアやシリアなどで、総称してレヴァント(Levant=東方)と呼ばれた。レヴァント貿易(東方貿易)という単語、頭の片隅で何となく覚えている。地中海を商業圏とするイタリア商人とムスリム(イスラム)商人の交易。どっちも手ごわい商売上手、さぞかしユニークな商いの攻防戦が繰り広げられたんだろうな。
十字石について紐解いていったら最終的には商人や貿易の話になった。
個人的な話だけれど、過去生のいつかの時代に自分はシルクロードで交易に関わっていたんだろうなという感覚をずっともっていた。東欧やロシアをまわっている時も、そのもっと前に中国を旅した時も、何とも懐かしいその感覚があった。昨年、OMOMUKI magazineを共に始めた CHAKA MAYO さんとコーカサス旅をした時もそう。シルクロードでのとある過去生をたどったような場所があった。その話はいずれまた。
最後に、奇石博物館 収蔵品の十字石画像を。神秘的、そしてとても魅惑的です。
text: OMOMUKI/ CIMACUMA SAORI
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